大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和50年(ウ)130号 決定

申立人

道東トラツク株式会社

右代表者

丹葉泰三

右代理人

笠井真一

外一名

被申立人

米沢信一

主文

本件申立を却下する。

申立費用は、申立人の負担とする。

理由

本件申立の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

本件のように仮処分を認容した判決に対し仮処分債務者が控訴したときは、原則として、これに伴う原判決の執行停止の申立をすることは許されず、例外としてこれが許されるのは、右仮処分の内容が仮処分債権者にその主張の権利の終局的満足を得せしめ、若しくはその執行により右債務者に対し回復することができない損害を生ぜしめる虞れがある場合に限られるのである。そこで、案ずるに、申立人の申立の理由は、被申立人(申請人)と申立人(被申請人)間の訓路地方裁判所昭和四九年(ヨ)第二七号地位保全仮処分申請事件で同裁判所が昭和五〇年一二月一六日に言渡された仮処分命令たる原判決は、「申請人(本件被申立人)が被申請人(本件申立人)に対し労働契約上の地位を有することを仮に定める。被申請人(本件申立人)は申請人(本件被申立人)に対し、金三万八一五〇円及び昭和四九年六月以降本案判決確定に至るまで毎月一〇日限り金八万八一八五円を仮に支払え。」という内容のものであつて、仮処分債権者たる被申立人にその主張の権利の終局的満足を得させるものであり、また申立人が右仮処分命令に従つて被申立人に対して金員の支払をしていつた場合、被申立人の財産状況からみて、他日原判決が控訴審で変更されても、申立人は被申立人からその返還を求めることができず、そのため申立人は回復し難い損害を被る虞れがある、というにあるが、原判決たる本件仮処分命令は、申立人と被申立人との間の実体法上の権利関係を終局的に形成したものでもなく、またそれを既判力をもつて確定したものでもないことは勿論であるから、申立人と被申立人との間に若し被申立人主張のような権利関係が存しないというのであれば、それを前提として、申立人は被申立人に対して本件仮処分命令によつて支払つた金員を不当利得として返還請求することができるものであり、また、申立人は本件仮処分命令が違法であつてそれによつて若し損害を被つたというのであれば、被申立人に対してその賠償請求ができるのであつて、しかもそれは本件仮処分命令が取消されるのをまつ必要もないことである。かように申立人が原判決たる本件仮処分命令によりその被るという損失ないし損害の回復のための法的手段を現に有し従つて被申立人が申立人から右のような訴を起こされる立場に在る以上、本件仮処分命令が被申立人の権利に終局的満足を与えたものとはいえない。また原判決及び申立人提出の疎明資料によれば、申立人は相当数の車輛、従業員をようして運送業を営む会社であることが疎明されるので、たとえ、後日被申立人から、本件仮処分命令によつて支払つた金員を事実上取り戻すことができないとしても、それによつて回復することができないほどの損害を被る虞れがあるとは認め難いので、結局本件の場合原判決の執行停止決定をなしうる前示の例外的な場合にあたるものとは認められない。してみれば、申立人の本件執行停止の申立は、不適法であつて却下を免れない。

よつて、申立費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 長西英三 山崎末記)

申立の趣旨

被申立人、申立人間の釧路地方裁判所昭和四九年(ヨ)第二七号地位保全仮処分申請事件の判決に基づいてなす執行は、控訴人申立人、被控訴人被申立人間の札幌高等裁判所昭和五〇年(ネ)第二七〇号地位保全仮処分申請控訴事件の判決が言渡されるまで、これを停止する。

との裁判を求める。

申立の理由

一、被申立人(申請人)・申立人(被申請人)間の釧路地方裁判所昭和四九年(ヨ)第二七号地位保全仮処分申請事件について、昭和五〇年一二月一六日次のとおりの判決の言渡しがあつた。

申請人(本件被申立人)が被申請人(本件申立人)に対し、労働契約上の地位を有することを仮に定める。

被申請人(本件申立人)は申請人(本件被申立人)に対し金三万八一五〇円及び昭和四九年六月以降本案判決確定に至るまで毎月一〇日限り金八万八一八五円を仮に支払え。

申請人(本件被申立人)のその余の申請を却下する。

二、申立人は、昭和五〇年一二月二三日、右判決に対し、控訴の申立をなした。

三、右判決は、いわゆる終局的満足を得せしめるものである。また申立人において右判決を履行して、毎月金員を支払つた場合、控訴審において、右判決が変更された場合、被申立人の財産状況からみて、之の返還を求めることは不可能であつて、従つて、回復し難い損害を蒙る危険があるのである。

即ち、右判決に基づき、執行を受けた場合、実質上の終局的執行の場合と同じであるから、民訴法五一二条に基づき、申立の趣旨記載の決定を求めるものである。

四、なお、原判決には、幾多の事実認定の誤りがあり(例えば、四九年三月八日賞罰委員会において、被申立人が、進行記録計の提出について、問いつめられたことを、入社以来の不提出のことが問題となつていると誤解したと認定していることは常識的に、首肯し難く、また、その他、不提出についての認定に誤りがある。)、また、被申立人は、本件解雇後一箇月七万円乃至一〇万円の定期的収入を得、これは、副職程度以上のものと評価でき(その雇傭期間からみた安定性、賃金額からみて、通常得られる稼働賃金と同程度である。)、かかる収入額を控除していないことは、最高裁判決(昭和三七年九月一八日)に反し、また、現に右の如き収入を得ながら、一方申立人から、更に、主文同旨の金員の給付を受ける場合、いわば、二重の利益を得たことになり、即ち、法の予定する原状回復以上の利益を得さしむる結果ともなろう。

五、なお、申立人は被申立人に対し、昭和五〇年一二月二二日、判決主文記載の同月一〇日迄の金員合計金一六二万五四八〇円を支払つた。

従つて、本申立においては、昭和五一年一月一〇日以降の支払いについて停止を求めるものである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例